掲示だけでは、法改正対応とは言えない
築39年・496戸のマンション管理規約を、2026年の法律と暮らしに合わせて全面的に見直すべき理由
法改正を知らせた点は一歩前進ですが、説明は重要部分を欠いています。
結論から述べます。
今回の掲示は、法改正を住民に知らせる最初の一歩としては意味があります。しかし、当マンションに必要なのは「委任状や議決権行使書を出してください」という呼びかけだけではありません。先に行うべきことは、改正法に抵触して効力を失っている規約条項を正し、議案ごとの判断材料を区分所有者に十分示すことです。
1.この記事を書く理由――理事会を責めるためではない
私は2026年6月30日、当マンションの2019年9月改正管理規約と使用細則を、2026年4月施行の改正区分所有法および2025年10月改正のマンション標準管理規約と照合した「管理規約の現代化と法改正対応に関する検証報告書」を理事会へ提出しました。
その後、現在まで報告書の内容に関する回答、質問、検討結果の説明は受けていません。そこで、区分所有者が自ら判断できる公開資料として、掲示への返答という意味も込め、改めて問題点を整理します。
ここで目指すのは、誰かを非難することではありません。輪番制の理事会に、法務、建築、設備、会計、防災、情報技術の専門判断をすべて求めること自体が無理のある制度設計です。人の能力を論じ続けるより、法令、専門家、データ、AI(Artificial Intelligence、人工知能)を使って、仕組みの側を改善する方が早く、建設的です。
2.エレベーター前の掲示をどう評価するか
評価できる点
- 2026年4月に改正区分所有法が施行されたことを知らせた。
- 2025年10月にマンション標準管理規約が改正されたことを知らせた。
- 総会に来られない区分所有者にも、委任状や議決権行使書の提出を呼びかけた。
- 築39年を迎え、修繕積立金や設備更新が重要課題であることを明示した。
不足している点
- 「総会の議決は出席者を母数にする」と一括して説明しており、議案ごとに異なる決議要件が伝わらない。
- 特別決議の新しい定足数、招集通知の最短期間、全議案の「議案の要領」通知義務が書かれていない。
- 当マンションの現行規約に、改正法と抵触する条項が残っていることを説明していない。
- 規約改正案を9月26日の通常総会に提出するのかが示されていない。
- 修繕積立金改定について、金額、根拠、不足額、将来工事、代替案が示されていない。
掲示の中心部分は、正確にはこう説明すべきです
掲示は「これにより、総会での議決は総会に出席した方の数を母数として多数決を行う」と説明しています。しかし、これは住民向けの要約としても広すぎる表現です。
現行規約でも、普通決議はすでに「出席組合員の議決権の過半数」で決する仕組みです。また、書面または代理人によって議決権を行使する者を出席組合員とみなす規定も、現行規約第45条第5項に既にあります。今回の改正で大きく変わったのは、規約変更や一定の共用部分変更など、一部の特別決議について、全区分所有者を分母とする方式から、総会出席者を分母とする方式へ変更されたことです。ただし、特別決議には新しい定足数があり、マンション再生などには別の要件があります。議案ごとの区別が必要です。[3]
委任状と議決権行使書は同じではありません。
議決権行使書は、区分所有者が議案ごとに賛否を示す方法です。委任状は、判断を代理人へ委ねる方法です。修繕積立金の改定や規約変更のような重要議案では、白紙委任を集めるより、十分な資料を示したうえで、議案ごとの議決権行使を促す方が健全だと私は考えます。
3.「法律違反状態」という言葉は、正確に使う必要がある
古い規約が残っているからといって、直ちに管理組合や理事が刑罰を受けるという意味での「違法状態」になるわけではありません。ここは冷静に区別すべきです。
2026年4月1日の改正法施行後、改正法に抵触する規約条項は、抵触する範囲で効力を失っています。古い条文を冊子に残したままでも、その条文を法律より優先して適用することはできません。問題は、無効となった古い条文を前提に総会を運営した場合、招集手続や決議の有効性が争われる危険があることです。[4]
したがって、本件は「犯罪が続いている」という話ではなく、法と規約の不整合を放置し、誤った総会運営を招きかねないガバナンス上の重大リスクです。管理組合は速やかに規約本文を現行法へ合わせ、区分所有者が一つの文書を読めば正しいルールを理解できる状態に戻す必要があります。
4.最優先で直すべき法改正対応
当マンションはA棟からF棟までの6棟、全496戸からなる団地型マンションです。全体総会だけでなく棟総会もあるため、単棟型よりも規約整備の難度が高くなります。現行規約を最新の「団地型」標準管理規約と条文単位で照合する必要があります。[2]
| 優先度 | 現行規約の問題 | 必要な対応 | 主な該当条項 |
|---|---|---|---|
| 最優先 | 特別決議を、組合員総数・議決権総数の各4分の3以上で決するとしている。 | 改正法に合わせ、対象となる特別決議を「出席組合員およびその議決権の各4分の3以上」に改め、法律上の定足数も明記する。 | 第45条第3項、第68条 |
| 最優先 | 特別決議に必要な「組合員総数および議決権総数の各過半数」という定足数が整理されていない。 | 普通決議と特別決議の定足数を分け、総会資料にも議案別の成立要件を表示する。 | 第45条第1項関連、棟総会関係 |
| 最優先 | 緊急時には招集通知を「5日間」まで短縮できるとしている。 | 最短期間を「1週間」に改める。5日間の規定は改正法に抵触するため使用しない。 | 第41条第6項、第64条第4項 |
| 最優先 | 「議案の要領」を通知する対象が一部の重要議案に限られている。 | すべての議案について、区分所有者が賛否を判断できる程度の「議案の要領」を通知する。 | 第41条第4項 |
| 重要 | 団地全体総会と棟総会の決議要件が旧法型のままである。 | 最新の団地型標準管理規約を基礎に、棟別修繕、復旧、再生、建替え等の決議要件を全面整理する。 | 第63条~第70条 |
4-1.特別決議の分母が変わっただけではない
改正後は、一定の特別決議について出席者を分母にする一方、総会自体には「組合員総数と議決権総数の各過半数」の出席が必要です。つまり、欠席者を分母から外して可決しやすくした代わりに、総会を成立させる最低参加水準を法律で確保しています。掲示は前半だけを説明し、後半の定足数を示していません。[3]
4-2.全議案の「議案の要領」が必要になった
2026年4月以降は、すべての議案について、賛否を判断できる程度の内容を招集通知で示す必要があります。「修繕積立金を改定します」「重要議案を審議します」という見出しだけでは足りません。金額、理由、計算根拠、実施時期、代替案、区分所有者への影響が分かる資料が必要です。[3]
4-3.所有者不明・海外居住・管理不全住戸への制度対応
改正法は、裁判所の決定により所在等不明区分所有者を総会決議の母数から除外する制度、所有者不明専有部分管理制度、管理不全専有部分管理制度を整備しました。また、海外居住者に代わって管理事務や通知受領、議決権行使等を行う「国内管理人」制度も新設されました。[3]
これらは、規約を直さなければ直ちに違法になる項目ではありません。しかし、496戸の高経年マンションでは、相続未了、連絡不能、空き住戸、海外居住は現実的な問題です。制度を使えるよう、理事長の申立権限、理事会承認、届出、探索費用の回収などを規約に整備しておくべきです。
4-4.共用部分の損害賠償請求と専有部分への対応
共用部分の不具合について、区分所有者が入れ替わると請求権が散逸することがあります。最新の標準管理規約は、理事長が区分所有者および元区分所有者の損害賠償請求権等を代理行使するための規定を整備しています。また、共用部分の管理に必要な場合の専有部分の保存行為や、共用配管と専有配管を一体的に修繕する場合の規定も重要です。大規模修繕を控える当マンションでは、実務上の価値が高い改正です。[3]
5.法律だけでなく、2026年の生活に合わせて規約を現代化する
規約改正を、法改正への最低限の追随だけで終わらせてはいけません。管理規約は、そこで暮らす人の生活基盤です。築39年の今こそ、今後10年、20年を見据えた改正が必要です。
オンライン総会・電子投票・電子通知
現行規約は、対面、書面、代理人を基本としており、WEB会議システム、電子通知、電子議決権行使、電子議事録のルールがありません。国土交通省は、WEB会議システムの投票機能やチャット機能、事前の書面行使などを組み合わせた総会運営を示しています。[6]
規約には、本人確認、URL・ID・パスワードの送付、通信障害時の扱い、録音・録画、電子投票の締切、電子記録の保管、個人情報とサイバーセキュリティを定めるべきです。入院中、外出困難、遠隔地居住の区分所有者も参加しやすくなり、高齢化した大規模団地の定足数確保にも役立ちます。
EV・PHEV充電設備
現行規約第18条は、共用部分の改造や電気容量を超える設備の新設を禁止し、駐車場規定にはEV(Electric Vehicle、電気自動車)やPHEV(Plug-in Hybrid Electric Vehicle、プラグインハイブリッド車)の充電設備がありません。
国土交通省は、充電設備の使用ルール、使用料、設置費、運用・維持費の負担をあらかじめ総会と細則で定めることが望ましいとしています。躯体や敷地への加工が小さい工事などは、普通決議で実施可能と考えられる場合も示されています。[5]
当マンションでは、電気容量調査、受変電設備、設置主体、利用者負担、従量課金、予約、故障、火災・漏電対策、将来の増設計画まで一体で検討すべきです。EV設備は直ちに全台分を設置する義務ではありません。しかし、何も決めないまま先送りすると、将来の導入費と合意形成の負担が大きくなります。
置き配・宅配ボックス・管理事務所の代理受領
現行使用細則は、共用廊下等への物品放置を一律禁止する一方、管理事務所が不在時の配達品を代理受領するという古い運用を残しています。さらに、共用玄関を「24時間開放」としています。現在の宅配量、防犯、避難経路、管理員の負担を考えると、整合していません。
国土交通省は、宅配ボックス設置の決議要件を明確化し、置き配の使用細則を作る際のポイントも示しています。[5] 玄関前のどこまでを許容するか、避難通路を塞がないこと、保管時間、大型物・食品・危険物、盗難・破損責任、宅配業者の入館、長期放置時の処理を明文化すべきです。管理員による荷物保管は、原則廃止または厳格に限定する方が安全です。
防災を「注意事項」から「運営体制」へ
現行使用細則の防災部分は、家庭用消火器、机の下に身を隠す、台風時に窓を閉めるなど、個人向けの注意が中心です。最新の標準管理規約は、防災マニュアル、訓練、備蓄、防災情報、安否確認、防災用名簿、要支援者名簿、防火管理者など、管理組合が平時から取り組む業務を具体化しています。[3]
6棟496戸で必要なのは、災害対策本部、棟ごとの連絡体制、停電時のエレベーター、断水・排水停止、在宅避難、生活用水、簡易トイレ、通信手段、高齢者・障がい者への支援、リチウムイオン電池火災を含む実践的な計画です。
役員不足と外部専門家・第三者管理
現行規約第32条はマンション管理士等への相談を認めていますが、第33条は役員を組合員、同居する配偶者、同居する一親等以内の成年親族に限定しています。外部専門家を理事、監事、管理者として選任する道が十分に整備されていません。
国土交通省は2026年4月、管理業者が管理者になる方式について、導入手続、利益相反取引、通帳・印鑑等の保管体制などを整理したガイドラインを改訂しました。[7]
私の意見は、管理会社へ全面的に任せる方式へ一気に移行するのは危険です。まず外部顧問、外部監事、専門委員、規約改正支援者を段階的に導入し、必要な場合のみ外部管理者方式を検討すべきです。管理会社が管理者も兼ねる場合は、工事発注や委託契約で利益相反が生じるため、独立監査、複数見積り、情報公開、解任・引継ぎの規定が不可欠です。
このほかに見直すべき生活ルール
- 共用玄関の24時間開放、防犯カメラ、宅配業者の入館管理
- 電動アシスト自転車、電動キックボード、バッテリー充電・保管
- バルコニー喫煙、加熱式たばこ、臭気、騒音
- 身体障害者補助犬を含むペット規定の整理
- 床材の遮音性能、配管、浴室、窓、玄関扉、給湯器等の専有部分工事基準
- 紙と押印を前提とした議事録、規約原本、閲覧手続の電子化
- 「6Aガス」「16号瞬間湯沸器」「ポリバケツ置場」など、実態と合わない設備・用語の更新
6.修繕積立金の改定は、票を集める前に情報を出す
掲示は、9月26日の通常総会で修繕積立金の改定案を審議するとしています。築39年で設備更新と大規模修繕を控える以上、積立金の増額が必要になる可能性は高いでしょう。しかし、必要性がありそうだというだけで、金額の妥当性までは判断できません。
総会資料に最低限必要な情報
- 最新の長期修繕計画と工事項目別の概算額
- 現在の修繕積立金残高、今後の収入、年度別残高予測
- 長期修繕計画上の積立予定額と現時点の積立額との差
- 資材費・人件費の上昇をどう見込んだか
- 住戸タイプ別の現行額、改定額、増加額、実施時期
- 一括増額、段階増額、一時金、借入れ等の比較
- 大規模修繕工事の範囲、優先順位、延期可能な工事
- 補助金・助成金・省エネ改修を組み合わせる可能性
- 値上げをしない場合に、何年後にどの程度不足するか
- 議案が普通決議か規約変更を伴う特別決議かについての専門家確認
2024年改正の標準管理規約は、総会で長期修繕計画上の積立予定額と現時点の積立額との差、修繕積立金の変更予定等を明示することを重視しています。[5] 区分所有者に「協力」を求める前に、まず判断材料を公開する。それが合意形成の順序です。
7.当マンションで実行すべき改革工程
法改正対応の緊急修正
- 第41条、第45条、第64条、第68条を中心に、改正法との抵触箇所を専門家が確認する。
- 議案別に「定足数・決議要件一覧」を作成する。
- 9月26日総会の全議案について、十分な「議案の要領」を提示する。
- 規約改正案を新旧対照表で示し、団地総会と棟総会の区別を明確にする。
規約全体の全面改定
- 令和7年改正マンション標準管理規約「団地型」を基礎に、全条文を照合する。
- 所在不明者、国内管理人、財産管理制度、損害賠償請求、再生手法を整備する。
- 紙・押印中心の規定を、電磁的方法と併用できる形へ改める。
使用細則と生活インフラの更新
- オンライン総会、電子投票、置き配、宅配ボックス、EV充電設備の細則を作る。
- 防災、防犯、リチウムイオン電池、電動モビリティ、工事基準を更新する。
- 役員不足対策として、外部顧問・外部監事・専門委員の制度を整える。
情報公開とデジタル保存
- 総会・理事会資料、議事録、契約、修繕履歴、規約改正履歴を電子保存する。
- 住民向けに、決定事項だけでなく判断根拠と検討経過を公開する。
- 区分所有者からの意見に対し、回答しない場合も「検討しない理由」を記録する。
8.AIと専門家を使い、理事会の能力に依存しない運営へ
今回のような規約検証は、AIが特に力を発揮できる分野です。現行規約と標準管理規約の条文比較、法改正箇所の抽出、新旧対照表の作成、住民向けの平易な説明、総会資料の不足項目の点検を、短時間で繰り返し行えます。
ただし、AIの出力をそのまま規約条文として採用してはいけません。AIは調査・比較・草案作成の道具であり、最終的な法律判断と条文確認はマンション管理士や弁護士が行うべきです。最も有効なのは、AIで広く検証し、専門家に絞って確認してもらう方法です。費用を抑えながら、見落としを減らせます。
理事会を責めても、建物は若返りません。
回答を待ち続けても、規約は新しくなりません。
法律、公開資料、専門家、AIを使い、区分所有者が自ら学び、記録し、提案する。
私は、対立を目的とせず、このマンションを安全で持続可能な住まいにするため、公開の形で改善提案を続けます。
まとめ――今回の掲示は「入口」にすぎない
エレベーター前の掲示は、改正区分所有法に触れた点では一歩前進です。しかし、法改正対応を「出席者を母数にする」「委任状を出す」という話だけに縮めてはいけません。
当マンションに必要なのは、次の三つです。
- 改正法に抵触する規約条項を直し、総会決議の無効リスクを除くこと。
- IT、EV、置き配、防災、防犯など、現代の生活に合うルールへ更新すること。
- 輪番理事だけに依存せず、外部専門家、情報公開、AIを組み込んだ運営へ変えること。
修繕積立金を増額するのであれば、なおさらです。区分所有者からお金と議決権を集める前に、法に合った手続と、判断できる資料を整えるべきです。それが、管理組合への信頼を作る最短の道です。
参考資料・出典
- 法務省「老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るための建物の区分所有等に関する法律等の一部を改正する法律について」2026年確認。
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00375.html - 国土交通省「マンション標準管理規約」令和7年10月17日改正、団地型は令和7年12月10日一部修正。2026年8月3日確認。
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/mansionkiyaku.html - 国土交通省「令和7年マンション標準管理規約改正」2025年。2026年8月3日確認。
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001968331.pdf - 国土交通省「令和7年改正マンション標準管理規約を踏まえた管理規約の改正を行う場合の手続の留意点について」2025年。2026年8月3日確認。
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001965195.pdf - 国土交通省「マンション標準管理規約の改正について」令和6年6月7日、および「マンション標準管理規約 令和6年改正について」。2026年8月3日確認。
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001743297.pdf - 国土交通省「ITを活用した総会・理事会の開催に関するQ&A(改訂版)」2026年8月3日確認。
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001513683.pdf - 国土交通省「マンションにおける外部管理者方式等に関するガイドラインの改訂について」令和8年4月1日。2026年8月3日確認。
https://www.mlit.go.jp/report/press/house03_hh_000262.html - 前田利人「管理規約の現代化と法改正対応に関する検証報告書」2026年6月30日、理事会提出資料。
- 朝日センチュリーみずほ台管理組合「管理規約」2019年9月29日改正。
- 朝日センチュリーみずほ台管理組合「使用細則」。

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