埼玉県では、県と市町村が連携してデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進しています。特に生成AIの導入が加速しており、小規模自治体から中規模市まで、それぞれの規模やリソースに合わせたアプローチが見られます。
本記事では、三芳町の取り組みを中心に、埼玉県全体の動き、そして近隣の富士見市・ふじみ野市・所沢市・志木市の事例をまとめます。
1. 三芳町の取り組み
埼玉県入間郡三芳町(人口約37,146人)は、2025年7月に「exaBase 生成AI for 自治体運用パッケージ」(株式会社イマクリエ提供)を導入しました。
このパッケージは、単なる生成AIツールの提供ではなく、導入支援・運用サポート・職員活用促進まで含む包括的なサービスです。主な特徴は以下の通りです:
- LGWAN(地方自治体専用ネットワーク)対応で高いセキュリティを確保
- 職員向けオンライン研修(何度でも受講可能)
- 独自プロンプトテンプレートの登録支援(広報文・政策立案など)
- 利用状況の定期報告と運用サポート
- 入力データがAIの学習に使用されない設計
目的は職員の長時間労働削減(働き方改革)と行政業務の効率化です。文書作成、問い合わせ対応、情報整理などの定型・非定型業務を支援することで、職員がより創造的な業務に集中できる環境を目指しています。
三芳町は小規模自治体ながら、2025年という比較的早い段階で独自に先進的なパッケージを導入した点が特徴です。将来的には、行政手続きの処理速度向上や住民サービス品質の改善につながることが期待されます。
2. 埼玉県全体の取り組み
埼玉県は「埼玉県市町村DX推進ネットワーク」を活用し、県と県内全市町村が連携してDXを推進しています。このネットワーク内に専門部会を設置し、AIなど新技術の共同利用を積極的に進めています。
これまでの実績として、以下のようなツールの共同利用が拡大しています:
- 音声テキスト化サービス(現在34団体参加)
- AI-OCRサービス
- チャットツール
2026年4月からは、これに続く4つ目のサービスとして生成AIの共同利用(「自治体AI zevo」など)が開始されました。初期参加は15団体で、今後さらに拡大する見込みです。
この共同利用の大きなメリットは、小規模自治体の負担軽減です。単独で高額なツールを導入・運用するのは難しいため、県が窓口となって交渉・調達することで、コストを抑えつつセキュリティ(LGWAN対応)を確保できます。また、参加自治体間での活用事例の共有も促進されます。
埼玉県は「規模の経済」を活かした現実的なDX推進モデルを構築していると言えます。
3. 近隣市町の詳細事例
三芳町(小規模町)の独自パッケージ導入と比較すると、近隣の中規模市は県の共同利用を基盤にしつつ、独自計画で「組織的定着」と「住民向け情報発信」を強化する傾向が強いです。
富士見市の第2期DX推進計画の詳細
計画名称: 第2期富士見市デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画
期間: 令和8(2026)年4月1日 ~ 令和12(2030)年度末(実質5年間程度、年度ごとPDCAで柔軟に見直し)
位置づけ: 第1期の成果・課題を踏まえ、国・埼玉県のDX計画と連動。新庁舎整備(令和11年度予定)と連動した「スマート自治体」実現を目指す。
全体のビジョンと基本方針
- 「誰一人取り残さない」持続可能な行政運営と住民利便性の向上。
- デジタルを前提とした業務プロセス改革(BPR)と、データ活用による「プッシュ型サービス」への転換。
- 4つの基本政策を中心に構成(デジタル中心のBPR推進、市民サービスの充実、地域デジタル化、体制整備など)。
AI・生成AI・RPAに関する具体的な内容(基本政策3「デジタル中心のBPR推進」内の基本戦略3)
- 生成AIサービスの導入: 職員向けに生成AIサービスを導入。文書作成・要約・情報整理などの業務効率化を推進。
- 目標(KPI): 職員の生成AIサービス利用率 100.0%(令和12年度、所管課調査による)。
- 実施措置:
- 生成AI活用ガイドラインの策定(リスク低減のため)
- 定期的な職員研修の実施(活用促進+リスク教育)
- RPAとの組み合わせ(特に基幹系システム移行時における定型業務の自動化拡大)
背景: 第1期でRPAを4業務に導入した実績を基に、生成AIでさらに非定型業務へ拡大。庁内アンケートでAI/RPA知識のばらつきがあったため、研修を重視。
その他の主なDX施策(情報発信・住民サービス関連)
- 行政手続のオンライン化拡大(60手続 → 300手続目標)
- 証明書コンビニ交付・キオスク端末の拡充、「書かない・待たない」窓口改革
- オープンデータの推進(13種類 → 25種類)
- 新庁舎の無線LAN整備・ペーパーレス化(印刷量削減目標)
- デジタルデバイド対策(スマホ教室など)
特徴: 数値目標が明確で、「利用率100%」という野心的KPIを設定し、ガイドライン+研修で「使いこなし」を組織的に担保する点が三芳町のサポート重視型と異なります。県の生成AI共同利用(zevo)にも参加しています。
ふじみ野市のデジタル戦略と生成AI活用
計画: 「ふじみ野市デジタル戦略計画(2026-2031)」
(前段階として令和4~7年度「ふじみ野市DX推進方針」あり)
生成AIの位置づけ(「生成AIの積極的活用」施策)
- 目的: 職員を定型業務から解放し、「職員にしかできない業務」に集中できる環境整備。
- 具体的な活用分野:
- 庁内記録作成、複雑な審査業務、文書作成の効率化(特に福祉・健康分野の相談記録の自動化)
- 政策アイデア創出支援
- 住民相談対応業務への応用
- 音声認識+生成AIによる自動要約システムの全庁的導入を検討(記録作業負担軽減、対人支援の質向上)
- 紙ベースの複雑書類審査業務へのAI支援(ヒューマンエラー低減、公平性・迅速性・再現性の向上)
情報発信関連の取り組み
- 「魅力的でいきいきとした情報の発信」を基本目標の一つに掲げ、一律発信から「最適化・プッシュ型」へ転換。
- 子育て情報電子書籍の発行、イベント・事業情報のFメール等による多角的周知。
- 市民一人ひとりの関心・ライフステージに応じた適切なタイミング・チャネルでの情報提供を目指す。
特徴: 三芳町・富士見市と比べて福祉・健康分野の相談記録自動化など、具体的な業務領域を明示的に挙げている点が実務的です。情報発信も「最適化」をキーワードに、生成AIを間接的に活用する方向性が見られます。
所沢市の情報発信事例の深掘り
所沢市は県の生成AI共同利用に参加しつつ、住民向け情報発信で生成AIを早期に実践しています。
主な事例: 「チラデジ」(生成AIを活用した紙媒体デジタル化)
- 2024年実施: PIAZZA株式会社と連携協定を締結。
- 内容: 地域イベントの紙チラシを生成AIで読み取り・デジタル化。イベント情報をオープンデータ化し、市民の参加意欲向上と地域活性化を図る。
- 背景: 従来の紙媒体告知では情報拡散が課題だった。生成AIでチラシの内容を自動抽出・構造化。
- 位置づけ: 大阪市北区・東京都目黒区に次ぐ先進事例として注目。
その他の文脈: 規模が大きいため、県共同利用を基盤にしつつ、情報発信領域で独自のAI活用を進めやすい。全体として「住民に届きやすい情報発信」と「職員業務効率化」の両立を目指す動きが見られます。
志木市の生成AI活用と情報発信・共有の深掘り(特に先進的)
志木市(人口約7.6万人)は、生成AIの「自然な日常使い」を最も地道に推進している自治体の一つです。
導入経緯と体制
- 令和6年5月: 自治体向け生成AIサービスを本格導入(全国の基礎自治体導入率約3割の時期に先進的)。
- 市長が広報誌コラムでChatGPTに言及し、トップダウンで後押し。
- ガイドライン策定: 個人情報・機密情報の入力禁止、必ずファクトチェック、生成文をそのまま使用しない、など厳格ルール。
- 「シン・DX推進チーム」(庁内横断)で研究・実証を推進。
活用実態と成果
- 導入6ヶ月後・1年後に職員アンケート実施(回答率14.5% → 24.5%に上昇)。
- 2025年10月時点の平均利用率 約17.3%。
- 統合型内部情報システムと連携し、音声認識+生成AIによる自動要約を実現。記録作成負担を大幅軽減。
- 職員の「メンドクサイ」を「ラク」にする実感が得られている。
情報発信・共有の先進性
- 「自治体AI活用マガジン」に参画・共同運営: 全国の自治体AI事例を収集・発信するポータルサイト。志木市が積極的に関わり、他自治体との知見共有をリード。
- 草の根啓蒙: 定期研修+グループウェア掲示板に使い方Tipsを掲載。「使いましょう」ではなく「使えば楽になる」を丁寧に伝えるアプローチ。
- デジタル庁のデジタル改革共創プラットフォームアンバサダーも務めるなど、外部発信にも積極的。
特徴: 三芳町の「サポートパッケージ型」や富士見市の「目標数値型」と異なり、「文化として根付かせる」地道なアプローチが際立っています。情報発信も「庁内ノウハウの外部共有」という形で先進的です。
まとめ:近隣市との比較と三芳町への示唆
- 富士見市: 明確なKPI(利用率100%)とガイドラインで組織的。
- ふじみ野市: 具体的な業務領域(福祉相談記録など)を挙げ、情報発信の「最適化」を目指す。
- 所沢市: 住民向け情報発信(チラシデジタル化)で実践的。
- 志木市: 「自然な使い方」と全国共有で最も先進的・文化醸成型。
三芳町は2025年7月の早期独自導入で一歩先んじていますが、近隣市は県共同利用を活かしつつ「計画性」「情報発信」「文化醸成」で差別化しています。将来的に県全体の事例共有が進む中で、三芳町もこれらの知見を参考にしやすい環境にあります。
私たちの三芳町がAX(AIトランスフォーメーション)をより進めていただくよう応援してゆきたいと思います。
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